孫がいたら父に充実した生活を与えられたかもしれない

3連休に有給休暇をプラスして帰省した。帰省中、母から「糖尿病予備群だった父が、とうとう糖尿病と診断された」と聞いた。

76歳になる父は昔から痩せ体型だった。今でも太ってはいないが、お腹周りだけ普通でない量の脂肪がついている。典型的なメタボリックシンドロームだ。仕事をやめてから、どんどんメタボ体型になってしまった。

医師からは運動をしろときつく言われているようだが、運動嫌いで酒好きな父のメタボ体型はちっとも改善される様子がない。一応歩きに行っているようだが、そもそも散歩なんて趣味ではないのですぐに帰ってきてしまう。「一応やりました」程度だ。

父は昔から釣りが趣味で海や川に出掛け、釣ってきた魚を自分でさばいていた。けれど歳を取った今では、外に出かける事自体が億劫になってしまったようだ。毎日テレビばかり見ている。

そんな父に向かって母は「もう少しちゃんと運動しなさいよ」とは言わない。母が言っても、あーだこーだと文句が返ってくるだけだからだ。父と母はお互いに全く干渉しない。仲が悪いわけではないが、1つ屋根の下で別々の暮らしをしている。

お互いに部屋を持ち、各自で過ごす。食事もほとんど個々で用意して食べる。かと言って仲が悪いわけではないし、母は車の運転が出来ないので買い物は一緒に行く。

ケンカはしないが、仲良く冗談を言い合うなんて事もほぼ無い(父はお喋りなので母に一方的に話しかけているが、それを母が鬱陶しく思っている)

“家庭内別居”と言うほど悪い関係ではないので、”ルームシェア”という言葉の方が適しているだろう。2人が一緒に暮らしているのはお金の為(賃貸暮らしなので)と、どちらかに何かあった時の為というシンプルな関係だ。

父にはもう少し体の事を考えてもらいたいと思う。が、私も何も言わない。父はそこまでズボラではない。このままではいけないというのは本人が一番分かっているはずだ。家族とはいえ、子供じゃないのだから私も干渉するつもりはない。うちの家族は干渉し合わない事が普通なのだ。

それでも父は、一度体調を崩す事で危機感を感じないと、自発的にダイエットを行うようにはならないかもしれない。でも私は父にお酒を止めるようには言えない。

帰省中、近所の大きな公園に愛犬の散歩に出かけた。のんびり歩いていると、近くにいた5歳くらいの男の子が私に大きな声で「こんにちは!」と挨拶をしてきた。私が連れている犬をチラチラと見ている。

(犬を触りたいのだな)と思った私も「こんにちは」と挨拶をし「触る?」と聞くと男の子は、はにかみながら黙って小さく頷いた。

触り方が分からなかったようなので「上から頭を触ると犬がビックリしちゃうから、一度手のひらの匂いを嗅がせてあげて、下からお胸の辺りをさすってあげるんだよ」と教えると、その子は何度も「怒らない?ワンちゃん怒らない?」と聞いてきて可愛らしかった。

現在36歳の私が一般的な年齢で子供を産んでいたら、父には今頃この子くらいの孫がいる。孫と一緒なら、散歩嫌いの父も張り切って公園に行っただろう。ボール遊びなんかをしたかもしれないし、走って追いかけっこをしたかもしれない。

きっと小さな川や池や釣り堀に連れて行き、釣りを教えただろう。少なくとも今のようなテレビばかり見ている生活にはならなかっただろう。今よりも体を動かす生活をしていたと思う。

父の糖尿病が改善しないのは私のせいではない。父の不摂生がいけないのだ。父がテレビばかり見ている生活をしているのも私のせいではない。外に出掛けない父自身の問題だ。家族と言っても、お互い自立した1人の人間。自分の人生を生きなければいけないのだ。

だけど…。なんとなく申し訳なくなる。

父も母も私に「結婚しろ」なんて事は一切言わない。昔から、私のする事に全く干渉しない両親だった。好きに生きればいいと言う。「今の時代、結婚しない人は珍しくないのだから」と言う。

でも私は父の本当の気持ちを知っている。私が地元を出ると決めた時、父は「お前がいなくなると寂しくなるな。向こうで結婚するんだろうな」と小さな声で言った。酒に酔いながら「孫の顔が見たいという気持ちもあるんだよ」と言った事もある。この2度の発言がきっと父の本心だ。

父に酒以外の楽しみを作ってあげられない。だから私は、父の体がどんどんメタボになってしまっても、医師から糖尿病の診断が下っても、唯一の楽しみであるお酒を「やめなよ」と強くは言えない。

父の体の事は私のせいじゃない。私も自分の人生を生きようと思っている。でも「私が楽しみを作ってあげられたかもしれない」とも思ってしまう。