雨の日に佇んでいた、寂しそうなおじさんに対する私の偏見

よく行くスーパーの前に時々、焼き鳥や団子やたこ焼きなどを売っている軽ワゴン車が止まっている。商売をしているのはいつも違う人だけれど、大抵60歳くらいの男性。どういう商売形態なのか、どこかと契約しているのか、アルバイトなのか自営なのかはよく分からない。

いつの日だったか。その日は大雨で店内も人はまばら。外を歩いている人は殆どいない状態だったのだけれど、その日もよく見かける軽ワゴン車が止まっていた。売っているものは、焼き鳥でも団子でもない。包丁やハサミなどの「刃物研ぎます」という看板がポツリ。

その横で60代くらいの小柄な男性が、屋根の下で雨をしのぎながら、遠い目をして佇んでいた。当然こんな日に刃物を研ぎに来るお客さんは無く、男性はただただ佇んでいた。

軽ワゴン車で商売をしている彼らは、総じてどことなく寂し気な雰囲気を持っているというか。いや、とても元気に声を張って商売をしている人もいるけれど、それはそれで"空元気"に見えなくもない。

仕事が終わったらアパートに帰って、一人でビールでも楽しむのだろうか…と、私の勝手すぎる偏見が想像を掻き立てる。

大雨の日に佇んでいたおじさん(もしくはお爺さん)は、いつもに増して私の想像を大きくした。きっと生活は楽ではないだろうと思った。日銭を稼がなければいけないのに、今日はこんな大雨。それでも「1人でもいいからお客さんに来て欲しい」と思っているに違いないと思った。

未婚かバツイチか死別かは分からないけれど、きっと奥さんはおらず一人暮らしだろうと思った。古い木造アパートの1階に住んでいて、他にも警備のアルバイトなどを掛け持ちしているのだろうと思った。

今日は帰りにスーパーでタイムセールの餃子かなにかと、発泡酒を買って帰るのだろうと思った。小さなテレビと小さなテーブルと布団…くらいしかない狭い部屋で、テレビを見て発泡酒を飲んで眠るのだろうと思った。

私はおじさんの風貌をチラリと見ただけで勝手な偏見を持ち、これだけの事を想像して1人で勝手に切なくなった。

…けれど。これらは"私が抱いた印象"というだけの事であり、おじさんの本当の生活は分からない。一瞬見たおじさんの風貌だけで、ここまで勝手にネガティブなイメージを持つなんて、私はどれだけ失礼なんだろう。

他人に対して持つ印象というのは本当に勝手なものだなと、なんだか可笑しくなった。

もしかしたら本当のおじさんの生活は…。自宅は広々とした二世帯住宅で、ちょっと口うるさい妻と住んでおり、時々ケンカもするけれどまぁまぁ上手くやっているオシドリ夫婦。

孫が3人いて、2ヶ月に1度くらいは隣に住む息子夫婦と家族7人で外食。上の子は小学生で「じーちゃん!妖怪ウォッチのオモチャ買ってよ~」と、そういう時だけ甘えてきて生意気だけど、やっぱり孫は可愛くてついつい買い与えてしまい、息子の嫁に「甘やかさないでくださいね」とか言われてしまうんだけど、やっぱり孫は可愛い。

年金もしっかり貰っているし貯金もあるからお金に不自由は無いけれど、毎日妻と顔を合わせていると口喧嘩になるし、妻も「どっかに出掛けてきたら?」と言うし、まぁ認知症予防の為にも少し働いていた方がいいのかもしれないと考え、職人として働いていた頃の腕で週に3回、刃物研ぎのアルバイトをしている。

…のかもしれない。

独り身で寂しそうに見える人が、本当に寂しいかどうかなんて誰にも分からない。本人はその暮らしを大いに満喫しているのかもしれない。毎日ほくほくと幸せを感じているのかもしれない。

本当の事なんて本人しか知り得ないのに、他人は自分勝手な想像をしては「きっとそういう人だ」と確信を持って勝手に切なくなるのだから、人間の目なんて頼りないものだなと思う。